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毎日新聞

まず起きましょう
視界が開け心が動く

セミナーは終始、瀧口さんの明るい笑顔と楽しい話、イスに座ったままできる「ケアビクス」の実技指導で盛り上がった。

「寝たきりになった一番の原因は脳卒中。その脳卒中の予防は筋力トレーニングではなく、有酸素運動、つまりエアロビクス。呼吸が乱れない程度で、無理なくできる運動です。認知症の予防についても、ネズミで実験した結果、運動させたネズミの方が認知症が改善されたというデータもあります」と、日ごろの運動の大切さをアピール。

実技指導は「寝ている体を起こして座るだけで視線が変わります視界が広がり、世界が変わる。指一本でもいい、動かしてみると、生きるリズムが体から心へ伝わってきます」。数多くのお年寄りに接してきた瀧口さんの体験からにじみ出る言葉が、さわやかにリズミカルにながれる。バックには明るい音楽。

ケアでまず大事な「体を動かす(起こす)」ということが、ここでも強調された。

「背伸びして、手を広げて、気持ちも体も伸ばして」「手拍子をとりましょう。ひざをたたいて、お腹をたたいて。運動も『はじめチョロチョロ 中パッパ』でするといいですよ」「笑顔で、息をとめないように。笑うと免疫力が高まります」

瀧口さんの笑顔と明るい声が会場に響く。参加者もおかげでリラックスして運動できて、和やかムードがいっぱい。

「ドンドン」と床を鳴らしての足踏み運動では、「これは骨を鍛える運動。足を広げて歩くと股関節を鍛えます。上体起こしは背筋です」。運動しながら、その意味をきちんと伝える。

実技の仕上げは、流行歌「南国土佐を後にして」と、「涙そうそう」に合わせたケアビクス運動。
気功も取り入れている。「目ん玉ひんむいて」「鼻の穴ふくらませて」と掛け声も入り、会場は運動というより楽しい”踊り”の講習会といった雰囲気。「ストレス解消、みんなで楽しく、心と体の健康づくり」という瀧口さんの意図は大当たり。

参加者の70代の女性は「無理なく楽しく体をほぐし、日ごろ使わない筋肉を鍛えることができることを知りました。主人の介護で右肩、ひじなどを痛め、上がらなかった腕が上がるようになりました」と話していた。

瀧口さんは、「まず動いてみること。すると新しい発見や気づきがあり、心が動き、和む。感動できる心と体、そして精神の高揚。ケアビクスの目的はここにあります」と語っている。

 

[ケアビクス]

介護セミナーに初めて登場した。講師の瀧口さんが編み出した言葉で、「ケア」と「エアロビクス(有酸素運動)」を組み合わせ、心と体の健康づくりを目的にした、介護予防のためにもなる運動。フィットネスインストラクターだった瀧口さんが老人ホームでの指導をきっかけに、工夫を重ねて高齢者や障がい者の方にもイスに座ったままで「楽しく、安全に、かつ効果的に」できる運動をと、発案した。筋力、筋持久力を養い、老化していく体をケア。転倒防止や生活習慣病、認知症、介護予防などに効果的とされる。

西日本新聞[日曜版]Leaf 2015年12月6日掲載

プログラムが進むにつれ、参加者の表情がみるみる明るくなり、楽しげな笑い声が聞こえてくる。ここは、地域住民を対象に「ケアビクス」が行われた福岡県糸島市の公民館。
瀧口晶恵さんは、椅子に座ったままで有酸素運動を行うケアビクスを通して、心と体の健康づくりに取り組んでいる。

日本ケアビクス代表 瀧口晶恵さん(福岡市早良区)

たきぐち・あきえ 福岡市生まれ、日本ケアビクス代表取締役。福岡県内を中心に、熊本、広島、岐阜、岡山、北陸3県(石川、富山、福井)などで「ケアビクス普及支導員」を養成する他、介護施設や健康教室で指導をしている。

 

●有酸素運動を行いつつ脳トレも

生活習慣病の予防だけでなく、転倒防止や脳血管疾患の予防、認知症の予防改善など、有酸素運動には多くの効果があるという。
しかし、高齢になり、体力的に自信をなくした人が運動を始めるには、きっかけと勇気が要ることだろう。

高齢者が無理なく取り組めるケアビクスは、瀧口さんが1997年から提案・普及活動を続けている、椅子に座って有酸素運動を行いながら、認知機能もトレーニングするエクササイズだ。

愛知県にある国立長寿医療研究センターが、軽度認知障害と診断された100人を「運動プラス頭を使う」グループと「健康講座を受ける」グループに分け、半年間大規模な実験を行った。
「この実験で運動プラス頭を使ったグループの方が脳の萎縮を防ぎ、記憶力が改善したという結果が得られました。ケアビクスは手足の動きを止めずに、エクササイズ中も会話をしていきます。会話も頭を使う大切なツールですから」

 

●体調を見ながら運動強度を調整

ケアビクスでは、瀧口さんは言葉がけだけでなく、表情豊かに分かりやすいジェスチャーを交えながら、参加者とコミュニケーションを取り、モチベーションを高める。その一方で顔色や体調を見ながら、さりげなく運動強度を調整している。

市や町の健康づくり事業で、エアロビックフィットネスインストラクターとして高齢者と接する中、ケアビクスを考案した瀧口さん。
「認知症の方とも、45分間のプログラムを行います。言葉でのコミュニケーションは取りづらくても、動きを通してその瞬間・空間を共有し、共感することでお互いの間に感じるものが生まれ、ハッピーになれます」

・福岡県糸島市で行われている「しあわせ教室」で指導する瀧口さん。この日の最高齢者は95歳
・空気を抜いて握りやすくしたスモールボールなども使って、ゲーム感覚を取り入れながらエクササイズ
・2006年には、ハンガリーのペスフレーム大学で学生を前にケアビクスを発表

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